働く人々。世の中の仕事、実務の現場

世の中の仕事の内容や実務の現場、キャリアパスについて色んな人に聞いてみました。

IR担当者の仕事は、ひとことで言えば自社株の営業マンです

私は以前、株式上場企業のIR担当者の仕事をしていました。

この会社の社員数は約150名で、管理本部のIRグループは私のみでした。

IR担当者の仕事

具体的な仕事の内容は、会社の業績や事業内容を、投資家や株主に広報することです。

さらに詳しく説明すると、四半期決算ごとに経理部と協力して決算資料を作成し、適時開示を行います。

決算書を適時開示したあと、自分の会社のホームページにすみやかに決算書を掲載します。

そして、決算発表した翌日から、機関投資家向けや個人投資家向けの決算説明会を開催したり、機関投資家や証券会社のアナリストを個別訪問して決算内容を説明していきます。

この仕事だけで1年間のうち8ヶ月を使います。

IR担当者の主な仕事は、自分の会社の株式を投資家に購入してもらうための営業活動といって、支障ありません。

IR担当者は適時開示のためにいる

また、適時開示も重要な仕事です。

適時開示とは、東京証券取引所(東証)が定めた規則に基づいた開示です。

東証の定めた規則に定められた事項を、漏れなく適時開示することもIR担当者の重要な仕事です。

役員人事の決定や、業績の下方修正や上方修正、訴訟を行うときなどは適時開示をしなければなりません。

このため、会社で取締役会や経営会議が開催されるときは、傍聴人のような形で出席して話を聞いています。

そして重要事項が決定されると、東証のTD-NETというシステムを用いてただちに開示します。

そのため、日頃から会社の社長や取締役だけでなく、東証の担当者とは円滑なコミュニケーションをできなければ仕事が成り立ちません。

株主からの問い合わせへの対応もあります。

また、日常的な仕事としては、毎日自社株の株価をチェックすることが挙げられます。

そして、投資家や株主からのメールや電話での問い合わせに対応することが挙げられます。

もっとも多い問い合わせ内容は

「なぜ、株価が下がったのか」

というもので、これに対しては

「当社の立場としては、どなたが売られたのかは承知していません。
業績向上を通じて、株価が上がるよう努めてまいります」

とお決まりの回答しかできませんから、株価が下落している局面では投資家や株主から電話越しに怒鳴られることも珍しくありません。

しかし、株主は損失を被っているのですから、仕方がありません。

仕事でつらかったこと

仕事上、辛かったことは投資家から怒鳴られたことですが、もっとも辛かったことは社長から、株価の下落局面で罵声を浴びて怒鳴られたことです。

社長は、会社の創業者であり、株式を30%以上保有する事実上のオーナーでもあったのです。

そして、社長によるIR担当者の評価基準とは「自社株を商品と認識して、できるだけ投資家に株を買ってもらい、株価を上げること」でした。

つまり、私は株式の営業マンという位置づけをされていたのです。

そのため、業績が悪いときや、世界経済が金融危機に見舞われて自社株の株価が大幅に下落したときは、社長から呼び出されて「おまえは無能だ」とか「どうして、株価が半分になるんだ」と怒鳴られて悔しく、辛い思いをさせられました。

楽しかった思い出

一方、楽しい思い出もあります。

それは海外ロードショーです。

海外ロードショーとは、外国の機関投資家やアナリストに対して、会社の事業内容や業績、今後の経営戦略を説明することです。

東京証券取引所での売買シェアの60%を海外投資家が占めていますので、外国の投資家は重要です。

2回、私も社長に同行してロンドン、フランクフルト、ニューヨークをまわったことがあります。

仕事の実務は、証券会社が手配してくれますので、仕事上の大変さを感じることはなかったですし、観光もできましたので楽しかったです。

IR担当者の年収は?

ちなみに、IR担当者の仕事は重要な業務とみなされており、私の年収は約800万円でした。

そして、仕事の大変さや業務量と比べて考えると、妥当な給与水準だったと思います。

決算発表前から決算発表後にかけての繁忙期は深夜残業が当たり前でしたが、閑散期は毎日18時の定時で帰ることができました。

IR担当者になりたい方へ

仮に、私の子供や友人がIR担当者の仕事をやりたいと言ってきた場合には、まず簿記知識を身に着けるようアドバイスします。

決算書を理解できなければ仕事にならないためです。

また、コミュニケーション能力が重要であるため、コミュニケーション能力を磨くことを勧めます。

自分から積極的に証券会社のアナリストや機関投資家のファンドマネージャーに電話をかけて面会の約束をとりつけないと、仕事にならないためです。

そして、メンタルを鍛えることも重要とアドバイスします。

どんなに仕事で努力しても、株価が下がる局面があります。

このようなときはIR担当者は針の筵に座る思いをさせられますが、これに耐えられないようではIR担当者は務まらないからです。